PROFILE

松本茂高  Shigetaka Matsumoto

1973年神奈川県生まれ。21歳の時に初めて訪れたアラスカの原野に圧倒され、現在もアラスカを中心とした旅を続けている。
ニコンサロン新宿、モンベル、コニカミノルタプラザ新宿、山梨県北杜市津金学校などで個展を開催。




2017年9月10日日曜日

傍観者

Bystander



先日、まだアラスカを訪れたことのない方と写真を見せながら旅の話をしていると、その方は僕に今回の旅で何に感動しましたか?と尋ねられた。
ふと考えてみる。
しばらく考えた後、渡り鳥の声の話をしたと思う。
でも、その時に話そびれてしまった話をもう一つこの場でお話させてもらえればと思う。


ある夕暮れ時に急峻な崖のはるか下にグリズリーの母グマと子グマの親子を見つけた。
肉眼では点のような距離で、特に近くでもないし、迫力のある写真や背後の広大な風景をバックに絵になる写真も期待はできないので、ぼんやりと崖の下の親子の姿を眺めていた。そのクマの親子はもちろん僕の存在には気がついていない。ただ移動の途中で崖の下を通っていただけのようだ。そしてその母グマは移動途中で時折立ち止まり、歩みの遅い子グマを気にかけるように振り返っては、子グマが追いつくのをじっと待っていた。子グマも別段、歩みを速めて母グマに追いつくこうと急ぐ訳でもなく、マイペースでゆっくりと母グマに近づいてゆく。やがて子グマが母グマに追いつくと母グマは安心したかのように、そのまま遠くへ消えていった。

ただそれだけの出来事である。
でも、クマが見えなくなった後、感動でとても胸が熱くなりしばらくその場から離れることができなかった。
一体、僕は何に感動したのだろう?
熊と自分の背後にとてつもなく懐の深い大きなアラスカの自然に感動したのだろうか?
そして、その時の僕とクマの親子との触れ合うことない時間を共有できたことであろうか?
結局はよくわからない。

僕は傍観者でいたいのだと思う。
決して彼らのリズムを崩すこともなく、空気のようになり、野生動物を遠くから静かに見つめていたいと思う。



















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