PROFILE

松本茂高  Shigetaka Matsumoto

1973年神奈川県生まれ。21歳の時に初めて訪れたアラスカの原野に圧倒され、現在もアラスカを中心とした旅を続けている。
ニコンサロン新宿、モンベル、コニカミノルタプラザ新宿、山梨県北杜市津金学校などで個展を開催。




2013年3月17日日曜日

2013年3月16日土曜日

キャンプ

Lost sight of our tent place

@Lake Clark National Park and Preserve, Alaska.  July 2009.




2009年7月 レイク・クラーク国立公園


一日中、歩き続けて、見晴らしの良いツンドラの丘にテントを張った。
背後に氷河に浸食された素晴らしい岩峰が続いている。


Lake Clark National Park and Preserve, Alaska.  August 2009.
最高のテント場所


夏の極北の太陽は、夜の9時を過ぎてもまだ沈まない。
テントを張り終え簡単な夕食を済ませた後、僕は友達をテントに残して辺りを散策しに出かけた。
しかし、背後の岩峰を近くで見てみようとツンドラの丘を登って行ったが、なかなか近づくことができない。
あまりにも広大な土地にいると、通常の距離感は通用しないのだ。
一時間以上をかけて丘を上り詰めたが、日没の事も考えて、近くまで行くことを諦めた。


随分と歩いて来たが、なかなか近づくことができない。



そろそろテントに戻ろうと振り返ってみると、広大なツンドラが続いていて自分のテントが何処にあるのか分からない。
広大な場所で目標を失うと、何処を目指して歩いて行けばいいのか分からなくなってしまうのだ。
ちょっと散歩がてらにここまで来てしまったので、GPSもコンパスも地図も双眼鏡も全部、テントに置いてきてしまった。

テントから一直線にここまで来たつもりなので、そのまま一直線に降りて行く事にした。
結局、随分とズレた場所で自分のテントを見つけることができ、日没までに無事に帰ることができた。

この辺りは夜になると相当に冷え込み、オオカミもグリズリーもいる場所なので、一つの気のゆるみが一大事に発展してくことが想像でき、反省しなければならなかった。

アラスカではどんな軽いハイキングでも地図やコンパス、雨具や水などを携帯して歩かなければならない。


振り返ってみるが、あまりにも広大なので自分のテントを見失ってしまった。




 

2013年3月15日金曜日

カリブー「移動」

Seasonal migration of caribou



Seasonal migration of caribou.
New born caribou crossed a river with mother.
Arctic National Wildlife Refuge, Alaska.

カリブーを北へと駆りたてる動機は誰にもわからない。彼らは春の嵐に耐え前進し、強靭な意志と忍耐力を発揮して、雪解けがはじまり氷塊であふれる川を渡り、出産のための場所へと足を速める。この過酷な旅を終えたときには、牝の体は痩せ細る。


2003年6月 
北極圏国立野生動物保護区 Arctic National Wildlife Refuge, Alaska




アラスカ最深部、ブルックス山脈の谷に入り三日目の早朝、テントの外を覗くと、千頭をこえるカリブーの群れが草を食んでいた。



今まで静寂に包まれていた極北の大地は、カリブーの到来と共に息を吹き返した。
その日を境に連日、カリブーの群れは、僕らのベースキャンプを通りすぎ、東のユーコン準州の方角へと向っていった。これらの群れの大部分は、生まれたばかりの仔カリブーを連れた牝ばかりの群れであった。生まれて間もない仔カリブーは、必死に母親の後に続き、次々と川を渡っていく。川を渡りきると、何故なのか、仔カリブーは山の斜面を興奮したかのように走りまわり、飛びはねていた。



6月中旬、北極圏に降り立ったとき、まだ雪解けの途中で、風景は荒涼として生命の気配の感じられぬ非常に寒々しい風景が続いていた。北極海から吹きつける風は、身を切るような冷たさであった。しかし、24時間の太陽エネルギーは雪をみるみるうちに溶かし、淡く済みきった極北の太陽光線にはぬくもりを感じられるようになっていった。

ある朝、突如としてカリブーの大きな群れがキャンプ地に押し寄せ、それから数日間、カリブーは東に向って移動を続けていった。数日間に及ぶ、極北の壮大なドラマはやがて過ぎ去った。そして、再び静寂と済みきった光が辺りを支配していった。

カリブーが来年もこの地域にやってくることを知識として知っているにもかかわらず、彼らの出産のためのこの場所は、世界でもっとも荒涼としたところという印象を受けてしまう。
ここでは時間は光と同じようにただ通りすぎるだけである。ゆったりと流れつづける時間、そして、長く続く薄明。しかし、ある日突然、再び静寂を打ち破るかのように、荒涼とした大地にカリブーが現れ、花が咲き乱れた。

極北の短い夏がやってきたのだ。







長い静寂、そしてそれを打ち破る突然の変化。はじめて体験する極北の夏を思うとき、この静と動の世界にただただ、圧倒されていた。



2013年3月7日木曜日

カヤック

Kayak



Glacier Bay National Park and Preserve, Alaska 2001
グレーシャーベイ国立公園 / ジョンズホプキンス湾

潮の流れに逆らい、腕の感覚を失いつつ漕ぎ続ける。奥に長く続くフィヨルドの入り江を廻りこむと、目の前に、巨大な氷河を懐に抱いた峰々がそびえたっていた




(C) Shigetaka Matsumoto


2013年3月5日火曜日

ワスレナグサの花

Forget-me-not (ワスレナグサ)

北極海の畔で 




流氷が漂う6月の北極海の畔をゆっくりと歩いていた。

まだ雪が溶けたばかりで荒涼としたツンドラの大地がどこまでも続いている。
時折、頭上を飛んでゆく渡り鳥以外は、生命の気配は感じられない。

寒々とした陰鬱な空の下、流氷の浮いている北極海、そして、ゆったりとした起伏を付けながら何処までも続くツンドラの彼方を眺めながら、僕らは何処かに生命の気配を探して歩いていた。

ツンドラを歩くことに少々疲れを感じ、その場で一休みをしていると、足下に小さな小さな淡い青色の花が咲いていた。腰を屈めてみると、それはワスレナグサの花であった。
そして、その花は、家の庭先や草原でゆらゆらと風に揺られるワスレナグサの花ではなく、ツンドラの大地にへばりつくようにして力強く咲いていた。

誰にも見られることもなくひっそりと、北極海の畔で毎年このように小さくても力強く咲いているのだと思うと胸が熱くなった。

Forget-me-not... ワスレナグサ。

Forget-me-not
Arctic National Wildlife Refuge, Alaska
まだ流氷が漂う北極海の淵でひっそりと咲いていた。
アラスカ北極圏国立野生動物保護区 




Forget-me-not
Denali National Park and Preserve, Alaska
デナリ国立公園で咲いていたワスレナグサの花。



Forget-me-not. ワスレナグサはアラスカ州の花である。


2013年3月3日日曜日

北極海の畔で

In a ridge of the Arctic Ocean  




周囲何百キロと人が住んでいない地域を旅する。

ブルックス山脈を源流とし、北極海に注ぎ込む川をカヤックで下った。

もう目の前は北極海。

打ちつける波の音も聞こえず、風の音も聞こえず、辺りは限りなく静かであった。






アラスカ北極圏を大群をなして移動するカリブーの季節移動を求めて。

Kongakut River, Arctic National Wildlife Refuge, Alaska 2010.